正直、こんなにニヤニヤしながら見て回った展覧会は初めてでした。
とにかく、どの作品を見ても、くすっと笑いそうになってしまって。
いやいや、こんな静かな展覧会場で笑うのは厳禁だろう、と笑いをこらえるのに大変だったり。(それでも、向かいの展示を見ていた人が、思わず、ふふっ、と声を出して笑ったのを聞き逃しませんでした~。でも、その作品、絶対笑っちゃうよね?と、わたしも思いつつ)
美術好きな方というより、むしろ歴女におすすめな「野口哲哉の武者分類図鑑」展を見に、京都まで行ってきたのです。
天下分け目の大決戦の地には、小さな武者がいっぱい
場所は、アサヒビール大山崎山荘美術館。
実業家の別荘として、大正から昭和初期に建てられた洋館で、取り壊し寸前だった建物をアサヒビールが買い取り、美術館として開館したそうです。
大阪から京都へ電車で向かうときに通るのが大山崎駅なのですが、いつも通過駅として通り過ぎるだけで、一度も下車したことはありませんでした。
今回初めて大山崎で下車してみると、山が近いせいか、駅の周囲は住宅街だけど、緑がいっぱい。
でも、「山荘」というからには、そこは山なのであって・・・。
駅から歩いて行ったんですが、「天下分け目の大決戦」の意で使われる「天王山」への登山口手前、見晴らしの良い高台に、目的の山荘があるため、結構な急勾配の上り坂を、ぜいぜい言いながら登るはめに。(一応、大山崎駅から送迎バスも出ています)
きっかけは、ぶらぶら美術・博物館でした
元はと言えば、先月、TVの『ぶらぶら美術・博物館』で、こちらの回を見たのが、きっかけでした。
ぶらぶら美術・博物館 #131 練馬区立美術館「野口哲哉の武者分類図鑑」 ~世界が注目!不思議で愉快な侍ワールド~
この番組を見るまでは、野口さんの名前も、作品も見たことが無くて、まったく存じ上げない作家さんだったんですけど、番組を見終わった頃には、すっかり野口さんの不思議な作品のとりこに。
その時点では、練馬区立美術館のみの開催ということで、2月の東京・鎌倉旅行のときに見に行っておけば良かったなあ、と残念に思ったのですが、でも、その時点ではまだ、野口さんのことは何も知らなかったわけで。
すると、しばらく後で、関西にも、この展覧会がやって来るという情報を得まして。これは絶対、行かなくっちゃ!と、楽しみにしながら、早速見に行ってきた次第です。
どんな作品なのかは、前述の、ぶらぶら美術・博物館の放送回のページを見て頂ければ、一目瞭然。
というか、展覧会会場の写真と合わせて、とても分かりやすく書かれていますので、詳細はそちらにおまかせ。(作者の野口さんも、ほんと、この似顔絵のまんまです)
合成樹脂やプラスチックを使って、古びた兜鎧の武士のオブジェを作り、「有職故実」の鎧武者の世界を現代風にアレンジしているのが野口ワールド。
これは、大いなる歴史へのパロディ作品のはずなんですが、パロディと言うには鎧兜などの造形物が緻密で精巧に過ぎるあまり、そして、広げた大風呂敷が史実に忠実すぎて、リアルすぎるがゆえに、れっきとした美術作品ではあるんだけど…やっぱり、どこか笑っちゃう。
まさに蒐集家の秘蔵コレクションのおもむき
こちらは、大山崎山荘美術館のパンフレットのページ。
このように、普段は古い大皿などの美術品が展示されている木製キャビネットに、今回は小さな鎧武者たちが並べられているわけですが。
古びた洋館の、こういったクラシカルな部屋でそれらを見ていると、美術展に来たというより、蒐集家の秘蔵コレクションを見るために山荘の主人に招かれたような錯覚にとらわれて、不思議な気持ちになりました。
展示されている鎧武者たちと、この洋館の雰囲気が妙にしっくりくるのです。
虚構の作品の中に、自分もまた取り込まれてしまったような幻惑めいた感覚。通常の美術館の展示スペースでは、こうはならなかっただろうなあ、と。
そういう意味で言えば、東京の会場で作品を見た人も、この大山崎でもう一度見ると、また違った視点で野口作品を楽しめるだろうなあと思いました。
トラベラーズノートにも「武者」たちを
トラベラーズノートに、今回の展覧会のことをまとめてみました。
展覧会の告知ペーパーから、お気に入りの作品を切り取って感想などと一緒に、トラベラーズノートにぺたり。
上の写真は「よろしく」と堂々と胴部分に書かれた鎧を着てポーズを取ったサムライ。
下の写真は、先祖伝来の黒熊の兜が、ついには、しゃべるようになってしまい、なんだか「ドロロンえん魔くん」みたいになってしまったTalking Head。 (どちらも、前述の『ぶらぶら美術・博物館』のページに作品が写っています。実物は、あのくらいの大きさなんですよ)
胴丸や具足のしつらえが、本物そっくりなほど、細かく精密にできていて。
だからこそ余計に、パロディ性が際立ってくるんですよね。
そして、サムライたちの、どこか飄々としていたり、情け無さそうにしている表情がまた、立派な鎧兜との対比で、わびしさや滑稽さを醸し出すというか。
作品の面白さもさることながら、野口さん本人による作品キャプションがこれまた、時代がかっていながら、いかにもで、本当に日本の歴史のどこかにこんなサムライが存在していたのじゃないかしらと錯覚してしまいそうになるほど、すべてが独特の野口ワールド。
そして、これらを製作するための材料を、東急ハンズで買って電車で持って帰ってました、というエピソードと、時代がかった作品とのギャップが何とも言えません。
そういうところも、どこか同時代性を感じさせてくれる庶民的な作家さんというか、ガンダムやゴジラなどのフィギュア造形作家さんと同じ匂いを感じ取れるというか。
こちらはクラシカルな自転車に颯爽とまたがって出陣する「着甲武人自転車乗車出陣」。
いや、それは変でしょう、とツッコミそうになりつつも、神妙な面持ちで自転車をこぎながら戦場に勇み向かう髯の武士の心意気が、画面から垣間見えたりして。(そこで、笑うべきか、ううーむ、となるべきか、一瞬、作品前で迷うわけで)
造形だけじゃなく、武士を描いた古絵図のようなものまで全て自作して、(これもハンズで買ってきたという木の板に書かれたのかと思うと・・・)至極真面目に時代を超越することで、非常にリアルっぽい空想武者世界をあたかも、実際に存在していたかのように、「現実化」してしまうんです。
これでも一応、歴女なわけですが、それほど鎧兜に興味があったわけでもなく。
でも、本当に楽しみながら見て回れる展覧会でした。
別に歴史には興味ない、という方でも、歴史の教科書や博物館やTVなどで一度は見たことがある物との共通性と、それをいかにパロディ化しているか、日本人なら分かるはずなので、その違いに、くすっと笑うのは必至かと。
こちらは、「シャネル侍着甲座像」。
堂々と、シャネルマークが胴丸の脇に刻印され、兜にも、あのシャネルのロゴが。
でも、シャネル本家からお墨付きを頂いて、シャネル主催の展示会のために作られた作品なので、大丈夫。商標濫用で訴えられることはありません!
こちらも、武勲をあげて、シャネルの家紋と家名を拝領してからの「紗練家」のいきさつが、野口さんによって、こと細かに設定・・・もとい解説されていました。
オシャレサムライをトラベラーズノートに貼ってあげられなくて、ごめんね~。
おじさん好きにもおすすめです
グッズ売場では、気分はパリコレな陣羽織姿のお侍さんの絵ハガキを買ってみました。
そういえば、この絵も、ちょっとマンガ風というかイラストちっくですが、展示内容のひとつに、野口さんのラフスケッチが飾られていて。
髭のおっさん武士たちのイラストを描いて、コピックで色をぬりぬりしてある下絵なんですけど。これ欲しいー!と思ってしまいました。(造形作家さんというより、これだけ見ていたら、同人作家さんっぽい・・・)
麗しき髭のおっさん(とってもキュート!)がいっぱいですので、おじさん好き女子は必見ですぞ。
そして、私にしては珍しく、図録代わりに、野口さんの作品集も買い求めまして。
本屋さんでも購入できる本なので、帰宅後、ネット注文しても良かったんですよね。このあと、京都市内に向かう予定で、重い本を持ち歩くのは避けたかったんですけど、こんなステキな展覧会を関西で開催してくれて、ありがとう!という、感謝の気持ち代わりにミュージアムショップ・カウンターで買って帰りました。
この本を広げて、家でも不思議なサムライたちを眺めながら、ニヤニヤしたり、そこはかとなく醸し出される可笑しさに、ふふっ、と笑みを漏らしたりしたいと思います。
あと、もし展覧会を見に行かれるなら、入り口で展示作品リストを必ずもらって、それを手に取って、会場を回ってくださいね。
思わぬところに、作品が展示されているので、ひっそり隠れているサムライを見逃しちゃうかも知れませんよ。
買い求めた作品集です。